那覇地方裁判所 平成9年(行ウ)2号 判決 1997年9月30日
沖縄県具志川市字赤道二五五番地四
久田友一方
原告
具志川市赤道大石原土地造成組合
右代表者地主代表
久田友一
沖縄県沖縄市美里一二三五番地
被告
沖縄税務署長 石垣次郎
右指定代理人
新垣栄八郎
同
宮良智
同
呉屋育子
同
郷間弘司
同
荒川政明
同
富村久志
同
古謝泰弘
主文
一 本件訴えをいずれも却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告のした別紙記載の各処分(以下「本件各処分」という。)のいずれも取り消す。
第二事案の概要
本件は、原告が、被告のした本件各処分はいずれも誤った所得認定に基づきされた違法な処分であるとして、その各取消しを求めた事案である。
一 争いのない事実
1 原告は、沖縄県具志川市字赤道四〇〇番地付近宅地造成開発事業を施工することを目的として結成された任意組合であり、別紙記載の各被処分者は、いずれも原告組合員である(以下、別紙記載の各被処分者を併せて「原告組合員ら」という。)。
原告は、平成四年三月から、右宅地造成開発事業を開始し、同五年に沖縄県具志川市字赤道四〇〇番地所在の土地ほか五六筆の宅地造成に係る土地交換分合(以下「本件交換分合」という。)をほぼ完了した。
2(一) 原告組合員らのうち山城光蒲(以下(光蒲)という。)は、同六年一〇月三日、同五年四月一日に所有権移転登記が行われた本件交換分合において譲渡所得が生じたとして、同年分の所得税の修正申告をした。
また、原告組合員らのうち志喜屋マカト(以下「マカト」という。)は、同六年九月二〇日、奥間いずみ(以下「奥間」という。)は、同月一九日、本件交換分合において譲渡所得が生じたとして、同五年分の所得税につきそれぞれ期限後申告をした。
(二) 被告は、右修正申告及び期限後申告に基づき、同六年一〇月一四日付けで、光蒲に対し、過少申告加算税、マカト及び奥間に対し、無申告加算税の各賦課決定処分をした。
3 被告は、本件交換分合において譲渡所得が生じたとして右2(一)記載の三名を除く一二名の原告組合員らに対し、別紙記載のとおり、同七年七月四日付けで、同五年分の所得税につき期限内の確定申告をした者については更正決定及び過少申告加算税の賦課決定を、期限後の申告をした者については更正決定及び無申告加算税の賦課決定を、申告をしなかった者については国税通則法二五条に基く決定及び無申告加算税の賦課決定をした。
4(一) 原告は、被告に対し、同八年一〇月一日付けで本件各処分を不服として異議申立てをした。
(二) 被告は、原告名でされた右異議申立ては当事者適格を欠き不適法であるとして、被処分者である原告組合員らに対し、個々人で異議申立てをするよう指導したところ、宮城好一、志喜屋孝助、奥間及び志喜屋孝市を除く一一名の原告組合員らが、同月二一日付けで(ただし、大城朝光は同月二八日付けである。)異議申立てをした。
(三) 被告は、原告のした異議申立てに対し、同年一二月二五日付けで、原告は法律上正当に異議申立てをすることができる者に当たらないとしてこれを却下する旨の決定をし、また、右一一名の原告組合員らのした異議申立てに対しても、いずれも同日付けで、国税通則法七七条一項に規定する不服申立期間を経過した不適法な異議申立てであるとしてこれを却下する旨の決定をした。
5(一) 原告は、国税不服審判所長に対し、同九年一月二四日付けで右各決定を不服として審査請求をした(なお、被処分者である原告組合員らは、右審査請求をしていない。)。
(二) 国税不服審判所長は、右審査請求に対し、同年四月三日付けで、原告が処分の取消しを求める法律上の利益を有するとはいえないとしてこれを却下する旨の裁決をした。
二 争点
1 本件訴えの適法性
2 本件各処分の適法性
(原告の主張)
1 原告の事業は、同三年五月八日、原告代表者ほか三七名の組合員らにより、沖縄県具志川市字赤道四〇〇番地付近宅地造成開発事業として都市計画法二九条の規定による具志川市長宛開発行為許可申請進達依頼書が提出され、同月一三日、同市長により、沖縄県知事宛開発行為許可申請書が進達され、同年一一月一八日、同知事から、許可番号第三-一二〇号として同法三五条二項の規定による許可通達を受けた組合事業である。
2 原告は、所得税法四条により原告組合員らを代表し、右事業に係る一切の責任を持つものであって、原告組合員らの損害は、原告の損害であるというべきところ、現に、原告組合員らは、原告に対し、本件各処分の通知書を届けて、本件各処分に係る税の支払いを要求し、また、原告代表者は、右要求に対し、分割払いの誓約書を差し入れ、その一部を支払っているのであるから、原告は、本件各処分により権利又は法律上の利益を直接侵害されているということができる。
3 原告は、被告に対し、同六年二月二一日に嘆願書を、同年三月一五日に請願書をそれぞれ提出し、右事業に伴う譲渡税についての調整、配慮を要請したにもかかわらず、被告は、原告の右嘆願書、請願書に対して回答をしなかったばかりか、原告に対し、本件各処分についての異議申立ての方法等を教示せずに国税通則法七七条一項に規定する不服申立期間を経過させたのであるから、原告が右不服申立期間内に不服申立てをしなかったことについては、同条三項のやむを得ない理由があるものというべきである。
4 そして、被告は、原告及び原告組合員らには、租税特別措置法三三条の二、三三条の三、六五条が適用されないものとして本件各処分をしたものと解されるが、かかる被告の行為は、法人税基本通達二-一-二〇条による右各規定の解釈適用を誤ったものであり違法である。
5 よって、本件訴えは適法であり、被告のした本件各処分は、違法なものとして取り消されるべきである。
(被告の主張)
1(一) 税務署長がした更正、過少申告加算税賦課決定等の課税処分並びに右処分に対する異議決定、国税局長がした審査裁決等の無効確認又は取消しを訴求する法律上の利益は、特別の事情がない限り、右課税処分等の直接の相手方である納税者自身がこれを有するに止まり、右納税者以外の第三者は、たとえ右課税処分等により何らかの不利益を被ることがあったとしても、それは単なる事実上の不利益であって、右訴えによる権利保護に値する利益を侵害されたものとはいえないと解すべきである。
(二) これを本件についてみると、被告は、原告組合員らに対し、本件各処分をしたのであって、原告に対し、かかる処分をしたのではないから、原告が、本件各処分により何らかの不利益を被ることがあったとしても、それは単なる事実上の不利益にすぎず、原告は本件各処分の取消しを訴求する法律上の利益を有しない。
よって、本件訴えは不適法である。
2 また、原告及び原告組合員らは、国税通則法七七条一項に規定する不服申立期間内に異議の申立てをしなかったのであるから、本件訴えは、不服申立前置の要件を欠くものとして不適法である。
よって、本件訴えは不適法である。
三 証拠
本件記録中の書証目録記載のとおりであるからこれを引用する。
第三当裁判所の判断
一 右争いのない事実によれば、被告のした本件各処分の名宛人は、原告組合員ら個々人であるところ、本件訴えは、直接の被処分者でない原告が本件各処分の取消しを求めるものであるから、かかる訴えが適法であるか否かにつき判断する。
二 行政事件訴訟法九条は、行政庁の処分の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)の原告適格につき、取消訴訟は、当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができると規定するところ、取消訴訟は、違法な行政庁の処分がされ、そのために個人の権利ないし法律上保護されている利益が侵害されている場合に、その被害者からの訴えに基づいて右の処分を取り消し、その判決の効果によって右の権利ないし法律上保護されている利益に対する侵害状態を解消させ、その法益の全部又は一部を回復させる制度であるから、同条に規定する「当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」とは、法律に特別の定めがない限り、当該処分により自己の権利ないし法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消しによってこれを回復すべき法律上の利益をもつ者に限られると解するのが相当である。
三 そして、被告のした本件各処分は、直接の被処分者である原告組合員ら個々人に対し納税義務を課すものであるから、当該処分の取消しを求める法律上の利益は、特別の事情のない限り、直接の被処分者である納税義務者のみがこれを有するのであって、仮に、原告主張のとおり、原告組合員らが原告に対し、本件各処分の通知書を届けて、本件各処分に係る税の支払いを要求し、また、原告代表者らが、右要求に対し、分割払いの誓約書を差し入れ、現にその一部を支払った等の事実があったとしても、それは単なる事実上の不利益にすぎない。
したがって、原告は、本件各処分により自己の権利又は法律上保護された利益を侵害されたものとはいえない。
四 よって原告は本件各処分の取消訴訟の原告適格がなく、本件訴えはいずれも不適法である。
(裁判長裁判官 原敏雄 裁判官 近藤昌昭 裁判官 高木陽一)
別紙
○ 具志川市字赤道大石原土地造成組合員に係る申告及び処分等について
<省略>